本年度の当該申請研究の実績は以下の点に集約できる。 1 ・ポアによる系統推定法の適応範囲が判明した。ポアの分化パターンに基づく系統関係の推定は、昨年度までの研究で種間、属間、科間と拡張されてきたが、さらに本年度の研究で初めて上科間の関係が調査された。その結果、幼体最初期のポア総数がすでに3上科間(Cytheracea上科、Bairdiacea上科、Cypridacea上科)で異なることが判明した。従って従来のポア総数の共有と分化に基づく系統推定法はPodocopida目介形虫の上科間には適用できないことがわかった。しかし幼体最初期のポア総数と配置パターンの類似性を考慮すると、Cytheracea上科(ポア数2)とCypridacea上科(ポア数3)が近く、Bairdiacea上科(ポア数10)はこれら2つと系統が離れると判断された。この結果は上科間という高次分類群の関係を客観的かつ明瞭な基準ではじめて論じたものであり、従来漠然といわれていた関係(Bairdiacea上科とCypridacea上科が近く、Cytheracea上科はこれと離れる)を否定するものである。 2 ・日本産Loxoconcha属内の系統をポアの分化に基づき推定し、さらにその時代的変遷を論じた。系統の推定には、ポアの総数の分化とともに、眼の周辺のポアの配置パターンが2タイプに分かれることを考慮した。その結果、日本には中新世中期にL.pulchraに代表されるBタイプの系統がまず進入し、その後鮮新世になりL.japonicaに代表されるAタイプの系統が進入、これが砂泥底、葉上に適応・放散し、現在の多様性の高い集団を形成していることが判明した。 3 ・上記の研究の結果推定された系統関係を検証するため、ミトコンドリアの遺伝子配列を比較することを最終目的として、ミトコンドリアの全塩基配列の解読の実験に着手した。 4 ・1と2の成果について99年2月の日本古生物学会で口頭発表を行った。
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