研究概要 |
本年度は,合成及び天然試料中の包有物の非破壊定量法の開発を中心に研究が進められた.包有物は,鉱物の結晶成長時及び成長後に周囲の固相や液相を捕獲することにより形成されるもので,その分析から鉱物の生成環境,生成後の環境条件などの重要な情報が得られる.そこで,鉱物の定量分析の応用として,鉱物マトリックスに埋没した包有物,特に流体包有物の中の微量元素を非破壊で定量する手法の実用化を試みた.流体包有物の元素分析は,地球内部での元素挙動の解明の重要な切り札として,現在,国際的に注目されている. プロトンビームによって微小な流体包有物中の微量元素を定量する場合,1)埋没した包有物に到達するまでのビームのエネルギー減衰,2)立体的な形状の包有物全体から発生する特性X線の総量,3)発生したX線が試料マトリックスを通過する際に吸収される量,の3つを正確に第一原理的に計算する必要がある.今回は,それらを正確に計算する手法を開発し,更に,微量元素濃度とサイズが既知の人工流体包有物をその計算法で定量することで,計算法の妥当性と定量分析全体での精度を決定した.分析は,筑波大学の大型タンデム加速器で行った. 人工流体包有物の定量分析の結果から,今回開発した定量法では,10〜1000ppmの濃度の元素を平均誤差±15%以内で定量できることが分かった.また,ビーム径が包有物の直径と等しいときに最も検出限界が良く,元素によっては数ppmの検出が充分可能であることが分かった.更に,この手法を用いて福島県石川町猫啼の花崗岩ペグマタイトの石英中の初生流体包有物を分析したところ,628ppmのFe,31.6ppmのRb,6.7ppmのSrが検出された.特に多量の鉄を含むことは,この地域のペグマタイトが磁鉄鉱・ザクロ石などに富むことと調和的で,流体包有物の組成がペグマタイト流体の特徴を反映することが示された.
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