研究概要 |
本年度は,PIXEによる合成及び天然試料中の流体包有物の非破壊定量法の実用化を中心に研究が進められた.この定量法では、各元素に対する正確な測定感度の決定と、1)マトリックス中に埋没した包有物に到達するまでのビームエネルギーの減衰,2)立体的な形状の包有物全体から発生する特性X線の総量,3)発生したX線が試料マトリックスを通過する際に吸収される量,の3つの量の正確な計算を行う必要がある.今回は,適切な固体標準試料を用いて正確な測定感度を決定する手法を開発し、更に,微量元素濃度とサイズが既知の人工流体包有物をその計算法で定量することで,上記の3つの計算法の妥当性と定量分析全体での精度を決定した. 人工流体包有物の定量分析の結果から,今回開発した定量法では,10〜1000ppmの濃度の元素を平均誤差±11%以内で定量できることが分かった.そこで,この手法を用いて長野県川上村の花崗岩体近傍の石英脈中の流体包有物を分析したところ,wt%レベルのCa,Fe,数百〜数千ppmのZn,Pb,Cu,Br,数百ppmのRb,Sr,数10ppmのMnが認められた.付近には、同時期の熱水活動で生じた鉄・銅・鉛・亜鉛鉱床が存在し、今回の流体包有物の高い金属濃度と調和的である。また、鉱床の一部には石灰質の母岩との反応によるスカルンが存在し、包有物中の高濃度のCaは、堆積岩から流体に供給されたものと考えられる。この結果、花崗岩体から高濃度の金属元素が流体を通じて供給されることで金属鉱床が形成され、その流体の組成には周囲の母岩からの寄与も存在することが明らかとなった。今後、花崗岩起源の流体と金属鉱床形成の関係について、流体包有物の組成分析を通じて検討していく予定である。
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