細胞構造解析に充分応用できるだけの感度と分解能を有する実用的な紫外光励起顕微ラマン分光システムを開発することを目的に、これまでに以下の特徴を有する試作品を製作した。先ず、基本光学配置としては、共焦点方式を採用し、空間分解能の向上と散乱光の効率的集光を行なえるようにした。紫外アクロマチックレンズや特殊コーティングミラーを活用し、集光したラマン散乱光を分光器に導く過程での損失を低減化した。また、蛍光板を設置したテレビカメラで顕微鏡像をモニターすることにより、試料上のレーザー照射位置を容易に選択できるようにした。昨年度購入した紫外用超高感度CCD検知器システムの微調整を行い、検知システムの最適化を行った。上記紫外顕微鏡・集光部と分光・検知部、および現有の連続発振紫外レーザーを用いて、紫外顕微ラマン分光システムの構成・配置の抜本的改良を行なった。蛋白質、核酸などの試料を対象にスペクトル測定を行い、空間分解能、スペクトル分解能、偏光特性、明るさなどの基本性能の評価を行った。その結果、顕微鏡対物レンズでの光損失が、スペクトル測定の可否を決定する重要な要因であることを見出し、光学軸の再調整や、試料ステージの微調整機構の導入を行なった。現在、比較的低倍率の条件では、蛋白質や核酸の紫外顕微共鳴ラマンスペクトルを測定することが可能となっている。今後、新規顕微鏡対物レンズの設計・製作を行うことにより、より高感度の紫外顕微ラマンシステムを作製し、細胞内の小器官の構造や特定生体成分の細胞内分布、およびそれらの動的過程の解析への応用を行い、細胞構造を分子構造レベルで解析するための有力な新規測定法として紫外顕微ラマン分光法を確立できる見通しがついた。
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