研究概要 |
本研究計画では,主に重遷移金属イオンの単核および複核錯体を用いて,電気化学的に錯体の酸化状態を制御して,溶液系からの金属イオンの可逆的な捕集を行えるシステムの開発を目的とする。さらに,本研究では生体の金属イオンの捕集,貯蔵,輸送,排出などの現象機構を理解する上での基礎的に重要な情報を提供することも付属的な目的としている。本年度では特に,研究目的に適合した錯体の設計,合成に主力を注いだ他,すでに合成した錯体を用いてその酸化還元に伴う金属イオンの吸脱着挙動を調べた。 (1)目的に適した錯体の合成。Ru,Os,Reのオキソ錯体に絞り合成した。酸化還元に伴うオキソ基の塩基性の変化に着目し,かつ酸化還元過程で骨格構造が安定に保たれるには,これらの金属イオンが適当と考えたからである。Ru_2(μ-O)(μ-CH_3COO)_2型骨格(架橋のカルボン酸イオンが2ヶ)をもつ錯体を数種合成したが,これらではオキソ架橋へのプロトン付加と連動した酸化還元挙動がサイクリックボルタモグラム(CV)で観測された。一方,M_2(μ-O)(μ-RCOO)型(架橋のカルボン酸イオンが1ヶ)(M=Ru,Os)錯体,M_2(μ-O)_2型(架橋のカルボン酸イオンなし)(M=Re,Os)錯体、trans-Re(O)_2型単核錯体はいづれも十分なプロトン共役酸化還元挙動を示さなかった。 (2)金属イオン付加と共役した酸化還元挙動。 Ru_2(μ-O)(μ-CH_3COO)_2型錯体について,数種の金属イオン存在下で,CVを測定した結果,一部の金属イオンについてオキソ基への付加と連動した酸化還元挙動は観測されたものの,アセトニトリル中の水が顕著な影響を及ぼし,理想的な挙動を見い出すための条件設定が難しい点も明かとなった。 (3)金電極上へのオキソ錯体の固定とそれによる酸化還元挙動の観測。ルテニウム三核,および鉄複核オキソ錯体を金電極上に導入することに成功した。そして,この電極が水溶液中でプロトン付加と連動した酸化還元挙動を示すことを明かにした。
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