研究概要 |
本研究計画では,主に重遷移金属イオンの単核および複核錯体を用いて,電気化学的に錯体の酸化状態を制御して,溶液系からの金属イオンの可逆的な捕集を行えるシステムの開発を目的として研究を進めてきた。前年度までに,Ru_2(μ-O)(μ-CH_3COO)_2型錯体を金属極上に自己集積化し,その水溶液との界面でのプロトン共役電子移動挙動を観測した。しかし,この自己集積化膜は被覆率が低く,さらに繰り返しの電位スキャンで錯体が徐々に解離するなど問題点が多く,当初の目的には不適当であった。特に,アセトニトリル溶液を用いた場合には電極応答も十分ではなく,解離がより起こり易くなることもわかった。今年度は,この問題の解決のための研究を進めたが,十分な成果を得られるには至らなかった。(1)混合自己集積化膜による安定化。^-S(CH_2)_nCONHC_5H_5N(n=2,10)の配位によりRu_2(μ-O)(μ-CH_3COO)_2型錯体を金電極上に固定化した後,フリーの配位子を含む溶液にこの電極を浸すことにより,錯体とフリーの配位子とを含む混合自己集積化膜を,炭素鎖にの長さの組み合わせをいろいろに変えて作成した。これらの電極は,水溶液との界面でのプロトン共役電子移動挙動をそのまま示す一方,錯体の解離は抑制された。しかし,この場合でも有機溶媒中での共同は十分でなかった。(2)Ru三核錯体の自己集積化膜。Ru_3(μ_3-O)(μ-CH_3COO)_6型三核錯体は,その骨格ではプロトン共役電子移動挙動を示さないが,安定度の高い自己集積化膜を作ることがわかったので,このユニットにイミダゾールのようなルイス塩基点を持つ配位子を導入することにより,当初の目的に合致した自己集積化膜が得られるかどうかを調べた。しかし,先のオキソ架橋錯体のような明瞭なプロトン共役電子移動挙動は観測出来なかった。金属中心部分の酸化還元による配位子部分の酸解離定数の変化があまり大きくないことが問題であり,残念ながらこのアプローチは有効ではなさそうである。
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