研究概要 |
金属-金属結合を持つクラスター化合物は、不均一系触媒(金属、金属酸化物等)のモデル化合物として、また、新たな均一系触媒として注目を集めている。特に、異種金属を含む2〜4核錯体(小クラスター分子)の化学は、二種の元素が協同して単核金属中心では起こり得ない新しい反応を促進する可能性、あるいは、二種の異なった機能・性質が融合されて新しい物質を生ずる可能性が持つことから、新しい化学の開拓において非常に期待の大きい分野である。本研究では均一系クラスター化合物の多核化とは異なる考え方に基づき、種々の同種・異種金属三核錯体を有機連結配位子を用いて様々な配向性を持たせながら高次化することによりバンド構造により近い電子状態を持つ複合材料を開発しようとするものである。小クラスター分子の配向集積化は、金属一金属結合の新たな反応性・物性を生み出すだけでなく、配向の様式によって電気伝導性、分子認識性、光応答性等の性質を付加できることが予想され、全体として多機能性複合材料の開発の端緒を開くことを目的とする。本年度は主として、基本単位となる新規クラスターの合成とその反応性・物性の検討を行った。 1 異種・同種直鎖状三核錯体の合成と構造決定-syn-[M_2 (dpmp)_2(RNC)_2]^<2+>の非配位P原子の空間的配置(同方向)を利用することにより、syn体と各種単核金属錯体(M′)との反応により金属一金属結合で結ばれたM-M-M′の構造を有する三核錯体の合成とその構造決定を行った(dpmp=bis (diphenylphosphinomethyl) phenylphosphine)。特に、白金を用いた場合にはsyn体と[Pt^0_3 (RNC)_6]との反応によりside-by-sideタイプの[Pt_3 (dpmp)_2 (RNC)_2]^<2+>が、また、d^<10>のCu(I),Ag(I),Au(I),Pd(0),d^8のPt(II),Pb(II),Rh(I),Ir(I)等広範囲な金属を用いることにより非常に多彩なPt-Pt-M′骨格を持つ3核クラスターの合成単離に成功した。その構造は元素分析、IR、UV-visスペクトル、^1H,^<31>PNMRスペクトルさらにはX線結晶構造解析により明らかにした。また、金属一金属結合の電子状態を評価する目的で分子軌道計算を行った。これらクラスター群は個体触媒の表面モデルとして、また、新規触媒反応を開発する上で非常に重要であると考えられる。また、anti-[M_2 (dpmp)_2 (RNC)_2]^<2+>の非配位P原子の空間的配置(逆方向)を利用して、Pt(0),Pd(0)錯体と反応させることにより、金属-金属結合を持つAフレーム型錯体を合成し、その構造を明らかにした。この場合、加えた0価金属は三核骨格の中心に取り込まれる(M-M′-M)。 2 白金三核錯体[Pt_3 (dpmp)_2(RNC)_2]^<2+>の有機小分子との反応を試みた結果、アルキン、アルケン、ルイス酸等が2つの共役した金属結合の一方に求電子的に付加することが明らかとなった。
|