研究概要 |
本研究においては、極低温でのパルスESR用共振器の開発並びに、一連の新規な多核遷移金属錯体の合成・構造解析を行なった。 共振器の開発においては、マイクロ波の磁界を試料部に高密度で集中させることのできるループギャップ型の試作を行い、従来ESR装置で使われてきた液体ヘリウム温度可変装置ヘの組み込みをも可能とした。これにより、室温から2.7Kまでの温度領域で0.1K以下の温度制御が可能となり、その結果、錯体ラジカルの電子スピンの緩和時間の制御が可能となった。また、共振器のマイクロ波回路への結合に関しては、幅広く結合度を調整できるゴードン結合器を採用した。このことにより、共振器を過結合にすることができ、マイクロ波パルス照射後の不感時間を大幅に短縮できた。 多核錯体の合成に関しては、これまでに^<14>N核のESEEM観測が行なわれているNi(mnt)_2xの誘導体に着目し、これと類似の骨格を有するA_2M(mnt)_2(Cu_4X_4)(A=Na,TBA;M=Ni,Pd,Pt;X=I,Br)の合成と構造解析に成功した。これら一連の錯体はいずれもM(mnt)2平面の片側にCu_4X_4の八員環が四つのCu-S結合を通してキャップした構造を有している。非常に興味深いことに、これらの錯体はその対カチオンの違いにより、discreteな錯体分子から1次元鎖、2次元平面構造へと次元性を変えることが可能である。これらのうちA=Na,M=Ni,X=Iの系はNaイオンをクラウンエーテルで取り囲むことによりESR信号を示した。この常磁性種について上記のパルス用共振器を用いてESR並びにESEEM測定を行ない、4.2Kにおいて^<14>N核による核変調構造を明瞭に観測することができた。 現在、詳細な解析を進めているところである。
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