研究概要 |
フラキノシン類は放線菌の代謝産物として見出された殺細胞性の抗生物質である。その合成にあたっては、三連続不斉中心の立体選択的構築、多置換芳香族骨格の位置選択的構築、さらに立体障害のある芳香族、脂肪族部分の結合等の問題がある。 9年度の研究では、通常は1,2-アニオノトロピーにおいて転位能力が低いアルキンが、ジコバルトヘキサカルボニル錯体化されると高い転位能を獲得するという新事実を見出し、これを基盤方法論として、フラキノシンDの初の不斉全合成に成功した。すなわち、Sharplessの不斉エポキシ化反応によって得られる光学活性なエポキシアルコールを出発物質として、上記のアルキン-コバルト錯体の特性を利用した還元的な1,2転位反応によって、プロパルギル位に4級不斉中心を持つホモプロパルギルアルコール誘導体をその絶対立体配置を制御して合成した。さらに、これをアルデヒドへと酸化し、その立体選択的メチレン化反応により、高い立体選択性で三連続の不斉中心の制御に成功した。得られたエポキシドを鍵中間体として、フラキノシンDの不斉全合成を達成した。 10年度の研究では、個々の合成反応に改善を加え、フラキノシンD以外のフラキノシン類縁体、すなわち、フラキノシンA、フラキノシンB、フラキノシンHの合成を目指し検討した。その結果、上記のエポキシドを共通の合成中間体とし、全ての類縁体を合成できる一般性の高い合成経路を開発することができた。 11年度の研究では、各化合物を活性評価のために十分に供給するため、合成法の洗練化を行った。また、実際に各化合物の活性実験を行った。さらには、優れた活性を持つ非天然類縁体の創製に向けて、その設計の指針を得るべく、種々の合成中間体の活性試験を行い、天然物に匹敵する優れた活性を持つ化合物を見出すことに成功した。
|