研究概要 |
省エネルギーや環境にたいするアセスメントから,有機合成化学に今求められているのは,目的とする物質を合成する際に,いかにできる限り短行程で達成するかである.したがって,高い選択性がそれを可能とする.われわれの抗真菌性マクロリドFilipin IIIの全合成にたいしての戦略は,われわれの開発したChiral Oxazaborolidinone-Promoted Asymmetric Aldol Reactionを用いてそれを達成させることである.Filipin IIIの特微的な構造は,1,3-ポリオールである.生合成的にはアセテート単位が不斉導入されている構造である.8個のアルコール不斉点をアルドール反応で連続的に導入するためには,よほどの高度なエナンチオ選択性が達成されねばならない.ジチオランを持つアセテートシリル求核剤でその選択性のレベルをわれわれは達成した(98%ee).したがって,各ステップでの異性体の分離はほとんど必要がない.また反応後のジチオラン部分の除去方法も平成10年度の研究でよりクリーンなラジカル反応で可能であることを見い出した. これらの有効な反応を連続して駆使してポリオール部分の不斉合成をほぼ達成した.全合成にとって残る問題はポリエン部分の合成とマクロラクトン化である.しかしこれらはすでにRychnovskyらにより報告されているので,おそらくわれわれもそれにしたがって完成させる予定である.上述したような1,3-ポリオールの不斉シン-アンチ合成法は,他の系にも応用されるもので,いくつかの合成研究を現在進展させている.
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