研究概要 |
平成10年度における研究実績の概要は以下の通り。 (I) 生成イオンの内部エネルギー分布: 通常の熱運動エネルギーより高速に加速された分子(数 eV)が固体表面と衝突すると、運動エネルギーは分子のイオン化エネルギーに変換してイオン化が行われると同時に、分子の内部エネルギーにも変換して分子イオンの解離が起こる。この結果、質量スペクトルでは、各種のフラグメントイオンとして観測される。各フラグメントイオンを生ずるに必要なしきい値エネルギーと、フラグメントイオン強度の分布から分子イオンに蓄積された内部エネルギーの大きさと分布が推定できる。本年度これについて検討し、内部エネルギー分布推定手法として確立した。実際に、鉄ペンタカルボニル(Fe(CO)_5)を試料として、測定を行った結果、(1)運動エネルギーの30%も内部エネルギーに変換する事、(2)内部エネルギー分布の幅は1〜l.5eV程度で、非常に狭い事、(3)固体表面の熱エネルギーから内部エネルギーへの寄与は小さい事、を明らかにした。 (2) 高速分子の負イオンの表面電離質量スペクトル: 本年度設備備品費(40万円)により、負イオン化学イオン化イオン源を購入し、購入先企業(島津製作所(株))からこのイオン源用の電源を借用して負イオンモードの測定が可能となった。(電源代(40万円)は、来年度の本科研費(継続)で支払う予定。)負イオン化学イオン化イオン源を表面電離測定用に改造し、(Ca,Sr,Ba)CO_3/Wを固体表面として負イオン表面電離質量スペクトルの測定を開始した。試料有機分子として、アセチル誘導体(CH_3COX;X=H,Cl,OH,CH_3,C_6H_6)を用いている. (3) 超音速分子線法を試料導入系とする電子衝撃質量スペクトル(SMB/EI):超音速分子線中では試料分子の振動運動の温度は断熱冷却により数K〜数十Kとなるため、電子衝撃を受けた際、通常の熱運動分子に比較して解離反応が起こりにくい。これを利用すると、熱不安定化合物の質量スペクトルにおける分子イオンピークの相対強度を高めることが出来る。ステアリン酸メチル(CH_3(CH_2)_<16>COOCH_3=298)を試料として、この測定を行い分子イオンピーク(m/z298)がこの方法で増大する事を確認した。この測定法における最適操作条件の選定等を来年度継続する。
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