研究概要 |
当研究計画最終年度における研究の実施状況は以下の通りである。 高速有機化合物分子の表面電離法(HIS; Hyperthermal Surface Ionization)をキャピラリーガスクロマトグラフ/質量分析計(GC/MS)のイオン源に組み込んだ装置の試作は、前年度までに完了している。この装置は、正イオンモードと負イオンモードの両方の測定が可能である。前年度に引き続き、種々のパラメーターがどのように測定結果に影響を及ぼしているのかを明らかにするために、イオン生成機構を検討した。研究論文(1)は、この機構に関する実験研究の成果である。 (1)研究論文(1)では、分子と固体表面との衝突過程において試料分子の並進運動エネルギー(Ek)が分子の振動励起に用いられる割合を推定する方法を提案し、その推定結果を報告した。実験に用いたのは、鉄ペンタカルボニル(Fe(CO)_5)で、固体表面は酸化レニウム(ReO_2)である。その結果、(i)Ekの一部が振動励起に有効であるがその変換割合は30%にも達する事、(ii)Ekの内、イオン化に用いられるものの割合(前年度、これを"γ-factor"と名付けた)は23%と推定された。(iii)これと併せてEkの50%以上もの高い割合が分子の内部エネルギーに変換している事、(iv)固体表面の熱エネルギーが分子の振動励起に寄与する確率は低い事、(v)これはHISの"impulsive"な機構と矛盾しない事、等を明らかにした。 (2)上述のように、負イオンモードでの測定が可能なシステムが完成しているが、負イオンHISのGC/MSへの応用に関する部分を論文として投稿する段階には至っていない。負イオンモードでは、アセチル誘導体(CH_3COOX; X=H,Cl,NH_2等)を試料として測定値が出始めているが今後の研究論文の提出にゆだねる。 (3)著書(3)では有機化合物の表面電離に関する最近の成果を総説した。ここでは、(i)関連する基本原理、(ii)装置、(iii)応答特性と操作性、(iv)応用例、等を含んで主としてGC検出器に関して総説した。
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