新世界ザルであるワタボウシタマリンとコモンマーモセットの白血球T細胞をニホンザルのHTLVウイルス感染T細胞株H-17と共培養し、細胞株として樹立することに成功した。そこでこれらの細胞株よりtotal RNAを抽出し、霊長類RNAパネルを拡充した。さらに本来は発現しないはずの視物質(オプシン)遺伝子の転写産物の同定をRT-PCR法により試み、転写制御の軽減化の可能性を検討した。一方、本研究計画のもう1つの達成目標である、霊長類オプシン遺伝子の構造・機能解析においては次の成果を得た。コモンマーモセットとヨザルより複数の赤緑オプシン遺伝子を単離した。コモンマーモセット赤緑オプシン遺伝子にはp561、p556、p543の3表現型が知られているが、単離された遺伝子は塩基配列からp561とp543をコードしていることがわかった。コモンマーモセット計30個体に対するサザンハイブリダイゼーションからp5S6に特有のバンディングパターンを推定することを得たため、それを示す個体の網膜より赤緑オプシン遺伝子cDNAを単離し、塩基配列からそれがp556であることを確認した。さらに視物質再構成実験によりこれらのオプシン遺伝子産物の吸光特性が予想される表現型と一致することを確認した。一方、ヨザルにおいては5種類の赤緑オプシン遺伝子が単離されたが、それらのうち4遺伝子は終止コドンにより翻訳領域が中断されており、機能しているのは1種類のみと考えられた。これらの結果を踏まえ最終年度である平成11年度においては霊長類細胞株のさらなる拡充と霊長類RNAパネルのcDNAライブラリー化をはかり、さらに霊長類オプシン遺伝子の構造・機能の解明を完結させる。
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