研究概要 |
本年度は、電界放出顕微鏡法(FEM)によるカーボンナノチューブからの電子放出の基礎特性を前年度に引き続いて調べるとともに,ナノチューブを陰極とする電子ディスプレイ素子を試作しその性能評価を行った。 1. カーボンナノチューブからの電子放出特性の評価 ヘリウムカス中でのアーク放電により作製した通常のカーボンナノチューブの他,水素ガス中作製の多層ナノチューブ(MWNT)と化学気相成長カーボンファイバー(VGCF)を用いて電界放出の実験を行った。 (1) 水素ガス中作製の多層ナノチューブ 水素ガス中で炭素をアーク放電すると,陰極堆積物の表面にMWNTが高密度で成長する。水素ガス中で合成したMWNTの特徴として,カーボンナノ粒子やグラファイト結晶片などの副生成物が少ないこと,MWNTの先端部が破れささくれていることが挙げられる。これらの特徴は,電子放出材料として有利である。実際にヘリウムガス中作製の未精製MWNTよりも電子放出のしきい値電圧が低く,電流密度も高かった。 (2) 気相成長カーボンファイバー 気相成長カーボンファイバー(VGCF)は直径が100nmオーダー,長さが数μm以上ある。未処理VGCFは直径が太く,その集合体は綿状であるために,アーク放電で作製されたMWNTにくらべ,電子放出が劣っていたが,酸化処理を施し,直径を細くすることにより,MWNTの電子放出特性に近づけることができた。 2. カーボンナノチューブ電界放出電子源の試作と評価 ナノチューブを陰極とする蛍光表示管を試作し,ナノチューブ電界放出電子源の性能を評価した。その結果,100μA以上の電流を観測し,実用に耐える十分の寿命と輝度を得ることができた。
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