研究概要 |
本研究では,軟X線領域の偏光計測・制御の実用化をめざす.このために,(1)光学超薄膜偏光素子の性能を向上し,適用波長域を広げる.また,これと並行して,(2)開発した高性能偏光素子を使用して軟X線エリプソメトリーの精度を上げて,軟X線の物質表面での反射に対する理論を検証するとともに,軟X線エリプソメトリーを新しい表面分析法として発展させたい. 本年度は,(1)の偏光素子開発では,使いやすさと大きな位相角を期待できることから,偏光計測・制御の実用化には欠くことが出来ない透過型の多層膜の製作法として,バックエッチ方式に比べて適用物質対に制限がないためにはるかに汎用であるリフトオフ法を改善し,平面度を大きく向上する方法を開発した.今後,この方法で製作した多層膜の偏光特性の評価を進める.また,周期膜厚の小さい短波長用多層膜として,生物学・医学で注目されている水の窓領域での最適物質対の選択をすすめた結果,ScとCrの組合せで,120対で5%程度の高い反射率が入射角45度で得られた.この値は,バルクの反射の80倍であるが,さらに改善の余地がある.今後,表面粗さと界面粗さを低減するために,成膜条件の最適化をすすめる. (2)の軟X線エリプソメトリーでは,軟X線領域の物質の光学定数と多層膜偏光子の消光率0.001を考慮して電磁気学的な理論解析を進めた.この結果,予備実験でのMo単層膜の試料で得られた複素振幅反射率比(Rp/Rs)の入射角依存性に於ける共鳴に似た構造を説明することが出来た.また,膜厚依存性の理論解析から,軟X線エリプソメトリーの感度はすこぶる高く,膜厚に対して0.001nm,屈折率で0.0001,消衰係数では0.00001に達することが明らかにできた.
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