酸化物超伝導体単結晶のような結晶構造に異方性が存在する試料の異方的熱物性の測定は、物性の理解のためには必要である。しかし、酸化物超伝導体の場合にはc軸方向に厚い試料の育成が困難なために、定常熱流法によるc軸方向の熱伝導率の測定は困難であった。そこで本研究では、従来の1次元解析が可能な試料に対する定常熱流法ではなく、新しいタイプの異方性物質に対する異方的熱物性値の同時決定法を、計算機シミュレーションと実際の測定の両方から検討を行っている。第一段階として今年度は2次元物質に対して、1方向の熱伝導率が既知であり、それと垂直方向の熱伝導率が未知である場合について、十分な厚さがない試料の垂直方向の熱伝導率の決定法の検討を行った。今年度の成果は以下の点である。 (1) 2次元熱拡散方程式の解析 2次元の異方的熱物性値を同一セッティングで算出するためには、どこを加熱しどこを冷却するか、またどの部分の温度差をモニタするかが重要である。そのために2次元熱拡散方程式を解いて試料中の温度分布を計算するプログラムを作製した。これを用いて検討した結果から、計算上は厚さが1/10程度の試料に対して、異方性比すなわち厚さ方向の熱伝導率が十分計測可能であることがわかった。 (2) 実験による検証 以上のシミュレーションの結果を実証するために実験を行った。試料はあらかじめ2方向の熱伝導率を測定してあるケブラー繊維入りのFRPを用いた。fiber方向の熱伝導率が既知とし、それと垂直方向の熱伝導率を最適な加熱源、冷却源の位置と温度差モニタの位置をシミュレーションの結果から求めた位置にセットし、温度差を測定することで算出した。その結果この方法の妥当性を証明することができた。 現在、2方向の熱伝導率を同一セッティングで算出する方法について検討を行っている。
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