本研究では従来実現しなかった酸化チタンなどの半導体固体に対する時間分解ESR測定を実現する装置を製作した。従来は、CW-ESRで定常光照射中に表面に生じる長寿命ラジカルを測定するのみであったが、この装置では短寿命のラジカルを検出することができる事が特徴である。従来の時間分解ESR測定方法では、半導体固体に生成するキャリアにより動的に誘電率が変化するため、空洞共振器の感度が低下すると同時に大きな動的誘電率変化信号を与えるため測定が困難であった。そこで本研究では、それぞれに試料を装着した主空洞共振器と参照用空洞共振器を用い、そこからのマイクロ波を180度ずらした位相で合成し、動的誘電率変化信号を消去する原理の装置を製作した。この装置は、主空洞共振器のみを磁場中においてそれを掃引する事により、時間分解ESR信号を得ることができる。酸化チタン微粒子を用いた実験では、動的誘電率変化信号をおよそ1%程度まで相殺し軽減することができたので、実質的な感度は100倍程度に増大することが明らかになった。また自動周波数制御装置を外部に接続し、空洞共振器の揺動からの影響を排除し、低ノイズ信号を得られるようにした。現在の所、感度が不足している模様で、当初目的とした酸化チタン類を用いた測定には成功しなかった。本測定方法は、半導体物質一般に拡張できることが明らかになったので、バンドギャップ間に存在するトラップ準位に由来する短寿命常磁性種を検出できる原理を有する。この新しい方法は、半導体固体における短寿命の常磁性種(欠陥、不純物なども含む)検出の新しい一般方法を与える。
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