固体表面への入射角度を変化させて得られる回折情報を解析し、最表面からバルクに至るまでの三次元構造を明かにするための角度分解反射高速電子線回折装置を設計、製作した。本装置は固体表面をwell-definedな状態で保持するために10^<-8>Pa以下の超高真空雰囲気を実現している。性能評価として、二硫化モリブデン(0001)単結晶(MoS_2)を用いて電子線の入射角度及び入射方向にかかわらず鮮明なストリークパターンが得られることを確認した。このMoS_2(0001)単結晶上に分子線エピタキシー法(MBE)を用いてフラーレンC_<60>の薄膜を形成し、角度分解反射高速電子線回折を行ったところ、C_<60>の被覆率に対応してMOS_2とC_<60>の混在したストリークパターンを得ることができた。MOS_2の回折パターンは数モノレイヤーのC_<60>被覆で消滅した。この薄膜はファンデルバールスエピタキシーによる超格子構造を形成し、C_<60>の核形成から島状成長まで平坦な構造をとることが明かとなった。C_<60>の格子定数は1nmであるので、本装置の分解能の高さを証明することができた。また工業的な応用を検討するため、コンピュータハードディスクからサンプルを切り出しその表面、界面構造を評価した。トライボロジー的機能確保のために塗布されているパーフルオロポリエーテル(PFPE)のパターンと保護膜であるアモルファスカーボンからのハローリングとが得られた。後者の厚さが10nmであるため、その下地にあるCO-Cr-Ta-Pt磁性層からの回折は得られなかった。このことは本装置がより表面に敏感な用途に用いるべきであることを示している。電子線衝撃による気体の脱離を四重極質量分析を用いて検討したが、FやOやCのピークを有為的に示すためにはポールピースの幾何的位置を改良する必要があることが判った。また、チャレンジを行った電子線エネルギー損失分光(EELS)は現有のアナライザーでは困難で、EELS専用のものを用いる必要があると結論した。
|