研究概要 |
昨年度までに4,000気圧まで印加可能な走査トンネル顕微鏡(STM)を完成させ、グラファイト像の観測に成功している。4,000気圧までの加圧容器と6,000気圧までの加圧容器ではその設計上大きな相違があり、今年度は6,000気圧まで可能な高圧容器の作成を試みた。その試作の合間に、常圧下におけるn-シアノビフェニール(nCB)系液晶及びその混合系のグラファイト及び二硫化モリブデン基板上の単分子層の配列構造の系統的なSTM観測による研究を行った。ここでnはアルキル鎖の炭素の数を表し、大きいほどアルキル鎖が長い。その結果、以下の成果が得られた。1)6,000気圧の高圧容器が完成し、6,000気圧下のグラファイト及びフラーレンの観測に成功した。しかしながら、6,000気圧の高圧下にもかかわらず、フラーレンにはバルクの特性から予想された構造変化は観測されなかった。この結果から、バルクのフラーレンの構造変化と吸着した単分子層構造のフラーレンとはその構造転移の領域が異なることが推測された。2)常圧下のnCB系液晶の系統的な研究では、その詳細は別にして定性的にはいずれの基板に関しても同様の傾向が観測され、nが偶数か奇数かによってその配列構造が大きく異なっていることが判明した。すなわち、偶数の場合にはダブルロー構造を、奇数の場合にはシングルロー構造を呈する。これに関して直ちに偶奇性が推測されるが、偶奇性がなぜそのような系統的な配列構造の差を生み出すかに関しては解明されておらず、その機構について検討した。その結果、アルキル鎖末端の炭素の基板上の位置が、配列構造を決定することが判明し、これを分子動力学による計算機シミュレーションによっても確認した。すなわち、偶数の場合には末端炭素は、基板上にあり吸着しているが、奇数の場合には基板から離れ比較的自由に運動をしている。このため、基板との相互作用が偶数のnCB分子と奇数のnCB分子では大きく異なり、偶数の場合の方が強いことが明らかとなった。
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