本研究課題の主たる目的は、研究着手前に基本的には完成していた超高圧の走査型トンネル顕微鏡(STM)の利便性・簡便性を高めるための研究とそれを使った液晶単分子膜の界面相転移と配向構造変化のミクロ過程を直接観測し、その機構を解明することである。本研究期間に得られた成果は次のようなものである。 (1)超高圧STMの操作性の向上と6000気圧までの使用環境が実現。 (2)5000気圧の高圧下でのフラーレンC_<60>とC_<70>の配列構造の観測を行った。しかしながら、バルクの相変化と同様の変化を予測したにもかかわらず、それらは少なくとも5000気圧まで相変化しないことが明らかとなった。 (3)液晶単分子膜に関する研究ではn-シアノビフェニール(nCB)とn-アルキルオキシ・シアノビフェニール(nOCB)の二つの同族系列の基板配列構造の研究を系統的に行った。その結果、6CBから12CBまでの液晶分子のHOPGとMoS_2基板上の分子配列像はnが偶数か奇数によって明らかに異なった配列(前者が2列、後者が1列配列)を示す。これを系統的に整理すると、nCBでは(1)アルキル鎖のプラナ・ジグザグ面が基板に垂直に立っていること、(2)アルキル鎖中の偶数番目の炭素は常に基板に吸着し、一方奇数番目の炭素は基板から離れ比較的自由に運動できることが結論された。これによって、奇数の場合にはアルキル鎖の最終端炭素が自由運動でき、これが分子全体の基板への吸着性を弱める。このため分子同士の静電相互作用が相対的に強くなり1列配列を形成させる。これがnが偶数で2列配列を、奇数で1列配列となる理由である。nOCBの単分子膜では、これが逆転して観測される。
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