研究概要 |
本研究では、従来、聴覚のみを頼りにして行ってきた聴能訓練に音声の画像情報を併用することにより効率化を図ることが可能か否かを調べるのが初期の目的であった。単共振分解型圧縮音声と画像による聴能訓練の結果、聴力の状態が安定している5名の感音性難聴者のうち、4分法による平均可聴野(本研究で新たに定義)が20-25[dB]の被験者2名において画像の表現が聴取能力の明らかな改善に寄与し,37-48[dB]程度の被験者は画像なしでもすでに十分な聴取が可能であり,9[dB]程度の狭い可聴野の被験者は、画像を用いても聴取能力の改善は見られなかった。次に、訓練後の聴取能力(単語正答率)と可聴領域、振幅圧縮特性の関連を分析した結果によると,可聴領域内のフォルマントピーク分布割合が正答率と直線的な関係になることが示された。 この結果に基づき,健聴者のマスキングノイズによる模擬難聴状態(難聴者のHTLと同じスペクトルのノイズでマスクした状態)で同じ圧縮音声を聞く実験が行われた。 この実験によりマスクノイズのレベルを超えるフォルマントピーク分布割合が難聴者の可聴領域にあるそれと一致していれば、ほぼ同じ正答率になることが立証され、可聴領域内のフォルマントピーク分布割合を大きくする補聴器を設計することの重要性を指摘できた。最後に、単共振分解型補聴器の振幅圧縮の特性を補正する方式を提案し、その補正により難聴者における正答率の大きな改善が見込まれるということが推定された。今後はその方式の実現に努力したい。
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