研究課題
平成11年度においては、水俣湾への水銀流出開始(1932年)以来の、水俣湾から八代海への水銀流出の履歴について、これまでのデータを基に検討を行った。今年度の堆積物は、採取用具を改良してサンプリング地点を増やし、水俣湾から八代海への水銀の流出傾向を明らかにすることをめざした。堆積物の分析は、同位体希釈-誘導結合プラズマ・質量分析装置により実施し、定量誤差は、各種の堆積物標準試料の分析から2%以内であることが分かった。堆積物コアの結果から、これまで、明らかになった傾向(水俣湾からの水銀流出は、1980年代に実施された浚渫作業により促進されたものの、基本的には比較的緩慢である)が再確認されたが、より古い年代にも水俣湾からの水銀の流出が起こっていることが新たにわかった。堆積物中の放射性物質(大気中核実験由来の放射性降下物Cs-137)の分析結果より、この新たに見いだされた水銀流出の年代は、大気中核爆発の開始される1945年以前である可能性が高いと思われる。水俣湾におけるメチル水銀中毒の発生を促進した要因は、工場から水俣湾に放出された水銀が、周辺海域に迅速に拡散せずに、湾内にとどまったことであると考えられる。ただし、今回の調査で検討した、1945年以前の水銀の移行挙動については、年代の決定手順などで、さらに検討が必要である。
すべて その他
すべて 文献書誌 (2件)