研究概要 |
磁気冷凍は磁性体に磁場を加えることによって,変化したエントロピーを熱という形で外部に放出させる冷凍サイクルである.この磁気冷凍は従来,低温域(〜20K以下)でのみ用いられているが,磁気エントロピーが格子負荷に匹敵しうるほど大きい場合は,磁気冷凍をより高温で実用化することができる.私たちはこのような考えに基づき磁場によって常磁性から強磁性(又はフェリ磁性)にメタ磁性転移する物質を磁気冷凍作業物質に応用し,新しい磁気冷凍を開発することを目的にしている. 今年度は以下のような結果を得た. 1)これまで主として磁場中での比熱測定により,磁場熱量効果を評価してきたが,今年度は精密な磁化の温度依存性を種々の磁場で測定することにより,マックスウェルの関係式を用いてエントロピー変化を評価する方法を採用した.この方法によりは磁気異方性の大きい物質の磁気熱量効果を,単結晶を用いて正確に評価できることになった.まず,DyMn_2Ge_2について測定を行ったところ,多結晶の測定とは異なり,この物質は単結晶を用いた場合5Tの磁場まで一次転移はシャープさを保ったままであることを明らかにした.この結果,この物質は5Tの磁場では約15Kの幅にわたって大きな磁気熱量効果を示すことを見出した. 2)Er(Co_<1-x>Ni_x)_2について磁気熱量効果を測定した.まず,最近ErCo_2に対して,磁化測定で求めた磁気熱量効果が,比熱で求めた結果と一致しないという報告がカナダから出されたので,その検証を行った.私たちはErCo_2の単結晶試料を用いてSQUIDで磁化測定を行ったが,その磁気熱量効果は以前比熱で求めた結果と一致していることを確認した.さらにx=0.05,0.10の試料についても磁気熱量効果を調べたところ,x=0.10では一次転移を示さないものの,転移点は13Kまで低下し,大きな磁気熱量効果が低温で実現していることを見出した.
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