本研究では晶出化合物の組織制御による無害化を目的として、缶材に使用されている5052アルミニウム合金への薄板スラブ製造用電磁鋳造プロセスの応用を試みるとともに、5052アルミニウム合金の引張特性のJIS規格値を満足する組成を探索した。そのため、0.34%Feおよび2.68%Mgを含む合金をベース合金とし、Fe量をJIS規格値の上限およびそれ以上の組成、すなわち0.45%、0.81%に、Mg量をJIS規格値の下限およびそれ以下の組成、すなわち2.33%、2.05%に変化させた。それらの合金の内部組織および圧延材の機械的性質に及ぼすFe量およびMg量の影響を組織的観点から検討した。得られた結果を要約すると以下のようになる。 1. 電磁鋳造プロセスでは鋳塊は水冷による2次冷却のみで凝固し、さらに製造した薄板スラブは約5mmと板厚が薄いため、冷却効果が大きく、内部組織は微細なデンドライト組織となる。デンドライトアームスペーシングは約10μmと非常に微細である。 2. Fe添加量の増加および冷却速度の増大に伴い、晶出する化合物は増えるとともに、急冷効果により微細かつ均一に分散するようになり、それらが分散強化と焼なまし時の再結晶粒の微細化の役割を果たし、圧延後、O処理:およびH38処理した試料の引張特性は向上する。その結果、規格組成内のDC鋳塊を熱間圧延後、冷間圧延した板材の伸びとほぼ同等の値を維持しつつ、引張強さおよび0.2%耐力を大きくすることが可能となる。 3. Mg量の減少により、O処理材およびH38処理材の引張強さおよび02%耐力は低下する。しかしながら、Feを多く含む5052アルミニウム合金でも、Mg量を2.05%とJIS規格の組成以下にし、直接冷間圧延後、O処理およびH38処理することにより、その引張特性は5052アルミニウム合金のJIS規格値を充分満足するようになる。
|