研究概要 |
鉛バッテリ-の負極活物質は鉛酸化物粉末を電解還元して得た海綿状鉛であるが,この中には粉末の粘結剤として天然の高分子物質であるリグニンが添加されている.最近,このリグニンに,充放電の繰り返しに伴う負極鉛の異常成長を抑止する働きがあることが判明した.ところが,リグニンがどのような機構で負極鉛のデンドライト成長を抑止するのかという点については,ほとんど研究した例がなく,未だ不明である.本研究では,この点を解明するために,充放電後の負極Pbの表面解析,水晶振動子マイクロバランス法による質量変動の測定,ICPによる溶出Pbの分析等を実施し,以下の結論を得た.(1)リグニン無添加で充放電を行うと,負極Pb表面には肉眼でも確認できる凹凸が生じ,この凸部分では,500μm前後の針状物質が凝集し,異常成長している.(2)リグニンは,バインダーとして負極Pb中に含有させるのではなく,電解液中に直接添加した場合でも,負極Pb上での針状物質の異常成長を抑止する.(3)リグニンが吸着すると,充放電後の負極Pb表面はPbSO_4単相となる.これに対し,無添加の場合には,金属状Pbの成長が生起する.(4)リグニンはCの疎水性骨格とスルホン酸基などの親水基を同時に有する界面活性剤的構造を持ち,疎水基を負極Pb側,親水基を電解液側として,負極Pb表面に吸着する.この吸着物質は,電解液中の溶出Pbイオンが充電の際の副反応として再析出するのを阻害し,延いては針状物質の異常成長を抑止する.
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