鉛バッテリーの負極活物質中には、粘結剤として天然の高分子物質であるリグニンが添加されている。研究では、この物質に充放電の繰り返しに伴う負極鉛の異常成長を抑止する働きがあることを示し、どのような機構で負極鉛の異常成長を抑止するのか、どのような分子構造のリグニンが成長抑止に対して効果的なのかを明らかにした。また、それらの結果をふまえて、異なる分子構造を有する天然リグニンおよびリグニン誘導体による充放電試験を実施し、負極Pb上での金属Pbの異常成長を調査した。さらに、鉛バッテリーの放電過程におけるリグニンの役割を明らかにするため、水晶振動子マイクロバランス法ならびに回転リング-ディスク電極法による解析を行った。その結果、天然リグニンでは、標準リグニンよりも部分脱スルホンリグニンの方が、金属Pbの成長抑止に対して効果的である。高分子量リグニンが必ずしも有効ではなく、分子量より官能基の配置の方が異常成長の抑止には重要となる。充電過程は電荷移行が可能なサイトヘのPb^<2+>イオンの移動によって律速され、負極Pb面上に吸着したリグニンがその移動を阻害する。一方、放電過程では、電解液中にリグニンを添加することで、負極Pbの固体状態での反応Pb+SO_4^<2->→PbSO_4+2^<e->が抑制され、溶解反応Pb→Pb^<2+>+2^<e->の割合が増すなど多くの知見を得た。また、これらの研究成果をまとめ、(1)田口正美、平沢今吉:充放電に伴う負極Pbの異常成長抑止に果たすリグニンの役割、日本金属学会誌、61巻、1号、(1997年)、77〜82頁(2)田口正美、渡辺満生:鉛蓄電池における負極の異常成長と充放電特性に及ぼすリグニンの影響、表面技術、50巻、2号、(1999年)、196〜201頁など6報の学術論文とした。
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