大腸菌特異的T4ファージが有する2つの溶菌に関わるタンパク質(gp-e及びgp-t)をコードする遺伝子を大腸菌発現ベクターヘクローニングし、それぞれの溶菌特性を解析した.gp-eはリゾチーム活性を有し、ペプチドグリカン層を加水分解する.しかし、gp-e単独では大腸菌を溶菌へ導くことはできず、過剰発現したgp-eは大腸菌細胞質に蓄積した.一方、gp-tは大腸菌内膜にトンネル様構造体を形成し、このタンパク質をT7ファージのリゾ-チームを恒常的に産生している大腸菌で発現すると、速やかな大腸菌の溶菌が観察された.このことから、ファージによる大腸菌の溶菌過程は、gp-tによる細胞膜を貫通する構造体の形成と、gp-tを通じたgp-eのペリプラズムへの移送が必須であることが明らかとなった.そこで、gp-eアミノ末端にシグナル配列を付与することにより、ペリプラズム空間へ自発的にgp-eを移送し、ペプチドグリカンを加水分解することを試みた.シグナルペプチドを有するgp-eの発現により、大腸菌の形態が球形に変化した.このように形態変化した大腸菌は、純水に再懸濁するなどの方法により浸透圧ショックを与えると、速やかに溶菌へ導くことができた. 今年度得られた上記知見より、T4ファージの溶菌酵素を発現することにより、大腸菌の溶菌を制御できる見通しを得た.次年度以降はこれらの結果に基づき、有用物質生産との組み合わせを可能とする、自己破枠性大腸菌の構築を行う予定である.
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