大腸菌を用いた物質生産プロセスでは、細胞の破砕と菌体内生産タンパク質の分離精製が重要な工程であり、本研究ではバクテリオファージの溶菌作用を利用した自己破砕性大腸菌の構築と物質生産への応用を最終目的としている.今年度は、温度、剪断応力、浸透圧、容存酸素濃度等の環境因子が大腸菌の溶菌効率に及ぼす影響を解析した.T4ファージが多重感染し溶菌阻止の状態にある大腸菌に低温ショックや浸透圧ショックを与えると溶菌が引き起こされること、また、低温ショックによる溶菌が培養液中の剪断応力によって促進されることを明らかにした.すなわち、温度降下に伴って大腸菌の膜透過性が増加し、これが溶菌を導いていること、菌体を嫌気培養すると低温ショックを与えても膜透過性が増加しなくなることを見出した. さらに、本システムによる物質生産への応用を検討する目的で、シグナルペプチドを付加したリゾチームを生産するベクターと、目的タンパク質を生産するベクターを同時に大腸菌に導入する、デュアルベクターシステムの構築を行った.構築した大腸菌により目的タンパク質を大量に生産することを明らかとし、培養後期に溶菌タンパク質の生産を誘導すると、大部分の細胞が形態変化をし、大腸菌を集菌後、純水を用いて再懸濁し、細胞を破壊することで、細胞質内タンパク質を糾胞外へ回収出来ることを実験により確かめた. また、新たなアプローチとしてT4ファージが有するリゾチームよりもさらに溶菌活性の優れた溶菌酵素を探索する目的で、グラム陽性細菌であるバチルスに感染するファージを自然界からスクリーニングし、これらファージが有する溶菌酵素の遺伝子をクローニングした.現在これら酵素の特性解析を行っており、上記デュアルベクターシステムへ組み入れることによりさらに高効率の大腸菌を用いたタンパク質生産システムが提案できるものと考えられる.
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