本研究では大腸菌に自己破砕能を付与することによりタンパク質の分離精製プロセスを簡略化することを目的とした。Bacillus属に分類される細菌7種を用い、活性汚泥からファージのスクリーニングを行ったところ、Bacillus amyloliquefaciensに感染するファージ数種を得ることができた。さらにショットガンクローニング法を用い、溶菌酵素をコードする遺伝子領域を解析したところ、新規な溶菌酵素(pys1521)を特定することができた。されにこのファージはpys1521と独立に、ホリンとエンドライシンをコードする遺伝子領域を持っていた。このエンドライシンを大腸菌内で発現すると、ホリンの共役が無くとも大腸菌を溶菌することができた。さらに精製エンドライシンをグラム陽性、及び陰性の細菌に添加したところ、いくつかの細菌に対し抗菌作用を示した。 次に、目的タンパク質のモデルとしてβ-Glucuronidase(GUS)を選定し、GUSの生産の後にT4ファージの溶菌酵素を発現することにより、GUSを培地へ放出することを試みた。GUSをコードする遺伝子と、溶菌酵素をコードする遺伝子をそれぞれ独立したベクターに組み入れ、2種のプラスミドにより大腸菌を形質転換した。GUSとT7ファージのリゾチームを恒常的に発現している大腸菌内でT4ファージのホリンを発現したところ、速やかな溶菌が見られ、細胞質内で生産されたGUSの90%以上が培地へ放出された。一方、同じ大腸菌内でT4ファージのエンドライシンを発現したところ、その後も細胞増殖とGUS及びエンドライシンの生産が確認された。しかし大腸菌の物理的強度は減少し、純水に懸濁するなどにより浸透圧の変化を与えると菌体は溶菌した。
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