研究概要 |
[1]RNase-成長因子融合タンパク質の大腸菌による生産 ガン細胞の細胞成長因子受容体を標的として効率的にRNaseを腫瘍細胞に取り込ませるために、成長因子としてヒト塩基性線維芽細胞成長因子(FGF)を,またRNaseとしてヒトRNase1を選択し,それらを遺伝子上で融合した。次にこの融合遺伝子を大腸菌内でインクルージョンボディとして大量発現させる系,及び得られたRNase-FGF融合タンパク質を高効率で巻き戻す系を確立した。その過程でインクルージョンボディには菌体由来のRNAが大量に含まれており,これがRNase-FGF融合タンパク質の巻き戻りを妨害することを明らかにした。 [2]RNase-FGF融合タンパク質の培養細胞に対する増殖阻害活性の評価 調製したRNase-FGF融合タンパク質はFGF受容体を細胞表面に過剰発現する腫瘍由来細胞に対して特異的に細胞増殖阻害活性を示すことを確認した。さらに細胞内のRNaseインヒビターとの相互作用が弱いN末端7残基を欠失したRNase-FGF融合タンパク質を調製したところ,この蛋白質はより強い細胞増殖阻害活性を示した。このことはRNaseがFGF受容体を介して選択的に標的細胞内に取り込まれ,細胞内のRNAを分解していることを示唆する。しかしこの増殖阻害活性は,細胞死を誘導するほど強いものではないこともわかった。 [3]アクチノマイシンDとの併用効果 抗生物質アクチノマイシンDはRNAの合成阻害剤であり,無差別な強い細胞毒性を示す。有効濃度以下の低濃度のアクチノマイシンD存在下でのRNase-FGF融合タンパク質の相乗効果を調べたところ,FGF受容体を細胞表面に過剰発現する腫瘍由来細胞に対して特異的な強い細胞毒性を示すことがわかった。この結果はRNase-FGF融合タンパク質の制ガン剤としての利用法を暗示するものである。
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