研究概要 |
(1) タキソールA環の炭素骨格を構築するための新規な有機合成法の開発を引き続き検討した。その結果,世界各国の研究者によってこれまでに報告されたいずれの方法にも優る,単行程手法を見い出した。本方法は,アクリル酸エチルと3-ペンタノン(1.2:1)のテトラヒドロフラン溶液に,室温下t-BuOKを加えてしばらく撹拌後,ヨードメタンを加えて約1.5時間撹拌するもので,2,2,4-トリメチルシクロヘキサン-1,3-ジオンが収率63%で得られる。反応機構は,クライゼン反応の進行と引き続く分子内マイケル付加反応による環化として理解される。注意深い調査の結果,伝統的な良く知られた反応の組み合わせであるにも関わらず,これまで知られていないパターンであることが判明した。ほとんど特別の注意をはらうことなく,30gの環化生成物が3時間で入手可能であり,極めて有用である。そこで,様々なケトンと種々のα,β-不飽和エステルをt-BuOK存在下反応させた結果,本反応が一般性を有することも確認した。加えて,供生成物がヨウ化カリとt-BuOHであり,「グリーン・プロセス」の特長を併せ持った,非常に興味深い反応である。 (2) (1)の結果,多量のA環シントンが入手可能となり,これを用いたB環の構築法について新たな検討を遂行することが可能となった。ケトンとアルデヒドあるいはオキシムとの還元的カップリング反応を,サマリウム,チタン,スズ反応剤を用いて検討したが,現在のところ成功していない。引き続きオレフインのメタセシス反応を用いたB環の構築法について検討をしている。
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