研究代表者らが独立に開発した高耐熱導電性高分子を活用して、高温下でも作動する高エネルギー出力の高分子二次電池の構築と性能試験を目的とする。具体的には、今年度は次の2項目を推進した。 1)酸素酸化劣化の解析 2)機能ドーパントの分子設計と機能評価 1)酸素酸化劣化の解析 抗酸化ドーパントをド-ピングしたポリピロールを調整し、紫外可視吸収スペクトル測定により加熱に伴う電子状態の変化を計測した。ポR-ラロン、バイポーラロンに対応する吸収が500および700nmに観測されるが、加熱後吸収強度が減少し電導度も25%に減少した。しかし、スルホサリチル酸をドープしたポリマーは吸収の減少は観測されなかった。重水素化ラベル化したポリピロールの赤外吸収スペクトルの観測により、ポリピロールのN-Dとドーパントのスルホサリチル酸の間で水素交換が生起することが判明した。高温下の電導度劣化の初期過程はポリピロールのN位からのプロトン脱りが引き金となることが明かとなった。高温下150℃のESCスペクトルを観測、ドーパントのスルホサリチル酸のS原子の2p軌道がブロードし、更にカルボン酸ピークも減少していることから、加熱によりカルボン酸が脱離して水酸基へと変換される。脱離後もポリピロールの酸素酸化抑制を果たすことが出来るものと考えられる。 2)超抗酸化機能を持つドーパントの分子設計と機能評価 半経験的分子軌道計算(MOPAC Ver6.0)により、ポリピロールおよびドーパントの水素原子の結合エネルギーを計算した。ポーラロン状態のポリピロール上のN-H結合エネルギーは150kcal/molとなる。フェノールの水酸基プロトンの結合エネルギーは213kcal/molであり、両者のエネルギーが近いためにプロトン交換反応は生起する。これに対し、安息香酸のカルボン酸基の水素結合エネルギーは180kcal/molなり、フェノールよりも接近した値となった。この結果より、サリチル酸が抗酸化ドーパントとして有効であることが判明した。ドーパントとしてスルホサリチル酸を用いて合成したポリピロールは、125℃100時間で10^<ー2>S/cmを示す、極めて耐熱性の高い導電性高分子であることが実証された。
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