研究概要 |
シアン耐性呼吸とも呼ばれる、ATP合成を伴わないオルターナティブ経路の末端酸化酵素であるalternative oxidase(AQX)遺伝子は、核ゲノムにコードされている。その発現は低温や傷害等に誘導されることが知られており、AOXはこれらへの防御機構として働く可能性がある。一般に低温に弱いイネでは、発芽時や花芽形成時において低温にさらされると成長の遅れや不稔等を引き起こす。今年度はAOX遺伝子の低温における発現を調査し、AOXの低温耐性に対する関連性を明らかにする事を目的とした解析を行った。 イネのAOX遺伝子は複数コピー存在すること知られ、すでにAOX1a,AOX1bが当研究室で塩基配列が決定されている。今年度は新たに3種類のゲノミッククローンの塩基配列を決定し、それらのクローンをAOXX,AOXY,AOXZと名付けた。このうち少なくともAOXYは遺伝子の全領域を含んでおり、機能的な遺伝子であると考えられた。 低温に弱いとされている発芽時および花芽形成時おけるAOX1a,AOX1b,AOXX,AOXYの発現の低温応答性を調べた。播種後連続暗条件で28℃、6日間生育させた後4℃の低温処理・無処理を4日問および7日間行った芽生えにおいて、ノーサンハイブリダイゼーションを行った結果、AOX1a,AOX1bの低温による発現の誘導が見られたが、AOXX,AOXYには転写産物の蓄積が見られなかた。 花芽形成時における発現解析の結果、低温(15℃)および常温で生育させたイネの葉身、葉鞘、幼穂などでAOX遺伝子の転写産物の蓄積は見られなかった。これに対し感度の高いRNAプローブを用いると、小胞子期の幼穂においてAOX1aの転写産物の蓄積が見られた。更にその組織局在性を調べるため、in situハイブリダイゼーションを行った結果、幼穂ではタペートにおいてAOX1aが器官特異的に発現していることが確認された。
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