研究概要 |
動物培養細胞を用いた毒性試験系の開発/改良を目的とし,単層培養したヒト腸管由来上皮細胞を用いた実験系の構築を進めた。本研究では,まず「培養した腸管上皮細胞層の電気抵抗が毒性物質によって速やかに低下する」という我々の知見が毒物検出法として一般化できるかについて検討した。 (1)ヒト腸管由来細胞株であるCaco-2を透過性膜上に培養し,これに塩化ベンザルコニウム,サボニンなど膜損傷性の毒物を添加したところ,細胞層電気抵抗(TEER)の濃度依存的な低下が確認された。一方,同条件下で,細胞の損傷の状態を乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)漏出試験によって調べ,TEER法とLDH法の相関を調べた結果,両者は良い相関を示した。さらに,LDH法では変化が認められない低濃度でも,TEERの低下が速やかに起こっていることが認められ,TEER法は従来法より鋭敏で迅速な毒性物質検出法と成り得ることが示唆された。 (2)TEER法がどのような毒性物質に対して有効な検出法となるかを,作用機能の異なるいくつかの毒性物質を用いて検討した。その結果,細胞膜損傷性物質、細胞骨格損傷性物質,フォスファターゼ阻害性物質などはCaco-2細胞のTEERを顕著に低下させたが,蛋白質合成阻害を作用機構とする毒性物質の検出には無効であった。 (3)TEERを低下させる物質は,細胞層における物質透過性を昂進させると予測される。従って,腸管細胞層を用いた検定系は,腸管細胞自身の障害を検出するだけでなく,それに伴う細胞層での毒性物質や各種生体異物の透過性上昇を予測できる系として有用であると考えられる。細菌毒素やアレルゲン蛋白質の透過性がこのような毒性物質によってどのように変化するかを現在検討している。
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