ヒトの天疱瘡は自己免疫性の難治性疾患で、その治療はステロイドホルモンが中心であり、患者は常に副作用の危険に曝されている。一方、犬にも天疱瘡はしばしば認められる自己免疫性皮膚疾患であり、やはりヒトと同様にその治療には難渋している。そこで、ヒトと犬で同様疾患である天疱瘡の異同をしらべ、犬での治療実験がヒトの治療の参考になる可能性を検討した。犬の口腔上皮細胞から採取した遺伝子を鋳型として、犬のデスモグレイン遺伝子をクローニングし、バキュロウイルスに発現させてデスモグレイン1の融合蛋白を作成した。この融合蛋白はヒトの落葉状天疱瘡血清の抗体活性を吸収したために、犬とヒトのデスモグレインに対する自己抗体は一部交叉性を有するものと考えられた。また、ヒトの天疱疲の自己抗体を産生するリンパ球を検出する目的で、ELISAを応用したELISPOT法を開発し、自己抗体産生細胞の分布を調べることが可能となった。その結果、天疱瘡の重症例では循環血中のB細胞に自己抗体産生が見られたが、中等症あるいは正常人では自己抗体産生B細胞は認められなかった。また、大のデスモゾーム蛋白のデスモグレイン1およびデスモグレイン3の全身皮膚における分布をしらべ、デスモグレイン1は皮膚に多く分布し、デスモグレイン3は粘膜に多く分布することを発見した。これらの分布はそれぞれ落葉状天疱瘡と尋常性天疱瘡の血中自己抗体が標的とする蛋白と一致し、それぞれの疾患の好発部位とも一致した。
|