研究概要 |
1997年にニワトリの雌特有の性染色体であるW染色体の長腕中部に位置する偽遺伝子様のEE0.6配列をクローニングし[A.Ogawa et al.Chromosome Res.,5:93-101(1997)],その相同配列をニホンコウノトリからもクローニングした[Y.Itoh et al.,Genes Genet.Syst.72:51-56(1997)]。EE0.6配列は鳥類種を通じて高く保存されている。また、EE0.6配列と類似の配列はZ染色体上にも存在するが、W、Z上の配列はかなり異なるので、適当なプライマーセットを用いることにより、PCRでW、Z上の配列を異なったサイズの増幅断片(W;300bp.Z;580bp)として得られるため、性判別に利用することができる[K.Murata et al.,Jap.J.Ornithol.,46:157-162(1998)]。本年度はニホンコウノトリのW,Z上のEE0.6配列をそれぞれ特異的に増幅できるPCR法をキングペンギン、マカロニペンギン、ヒゲペンギン、フンボルトペンギン、アビの血液から調製したDNAに適用していずれも明確に性判別することが出来た。この結果は同様の方法により、ニホンコウノトリと近縁のトキ幼鳥の性判別も行えることを示唆するものである。一方、形態的に性染色体が識別出来ない走鳥類のダチョウおよびエミュのゲノムDNAから、ニワトリのEE0.6配列およびニワトリのZ染色体上のIREBP,ZOV3両遺伝子配列の相同配列をクローニングし、塩基配列のニワトリとの相同性がEE0.6では約70%、IREBPでは約90%,ZOV3では約80%と高いことを示した。さらに、これら走鳥類のクローンをプローブとして雌雄のダチョウ、エミュの染色体にたいして蛍光in situハイブリダイゼーションを行ったところ、これら3種の配列が1対の相同染色体上に局在すること、ダチョウでは雌でのみ、1方の染色体からIREBP遺伝子配列が欠失していることが分かり、走鳥類とその他の鳥類種の性染色体の起源が同一の相同染色体対であること、ダチョウでは雌特有のW染色体の分化の初期段階で性染色体の形態進化が停止していることが示唆された[A.Ogawa et al.,Proc.Nat1.Acad.Sci.USA,95:4415-4418(1998)]。
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