研究概要 |
(1)深胸類鳥類種の性判別プローブの開発:1997年に研究代表者らが見いだし、報告した[A.Ogawa et al.Chromosome Res.5 : 93-101(1997)]ニワトリのW染色体(雌特有の性染色体)長腕中部に存在するEE0.6非反復配列は進化上の保存性が高く、広く鳥類種のW染色体上に存在する。このことに着目し、微量の血液由来のDNAに対するPCRによる性判別法の開発を行なった。その後、EE0.6の関連配列がZ染色体(雌雄共通の性染色体)上にも存在し、種によってはW、Z上のEE0.6関連配列の塩基配列類似性が比較的高い場合もあり、必ずしもニワトリで設定したPCR条件が全ての種に適用出来ないことが分かってきた。そこで、ニワトリとニホンコウノトリのW、Z染色体上のEE0.6関連配列をそれぞれクローニング、塩基配列決定して、それぞれについてPCRプライマー配列を設定した。これらのプライマーを組み合わせることにより、これまでに8目18種の深胸類鳥類種の性判別が確実に行なえるようになった。 (2)走鳥類の性判別:ダチョウ、エミュなどの走鳥類は形態的に識別できる性染色体をもたず、性染色体の同定や起源については謎であった。本研究でニワトリW染色体上のEE0.6配列、Z染色体上の2つの遺伝子IREBP,ZOV3の関連配列がダチョウ、エミュに存在することが分かり、それぞれのゲノムクローンを取得、塩基配列を決定した結果、ニワトリの配列と相同性が高いことが分かった。これらの配列をプローブとして雌雄のダチョウ、エミュ、ヒクイドリの染色体に対して蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を行なった結果、いずれも同じ1対の染色体上に局在し、ダチョウとヒクイドリの雌では、片方の染色体でIREBP遺伝子が欠失していることが示され、深胸類、走鳥類の性染色体が同一起源であること、ダチョウ・ヒクイドリではW染色体の形態分化がわずかに生じていることが明らかになった。したがって、ダチョウ、ヒクイドリではFISHにより、IREBP遺伝子が1本の染色体上に存在(雌)するか2本の染色体上に存在(雄)するかを調べれば雌雄判別が可能であることが分かった。 (3)希少種の繁殖等への応用:特別天然記念物で種の絶滅に瀕しているニホンコウノトリとトキの幼鳥の血液または羽の根端細胞由来のDNAに対して、ニホンコウノトリのEE0.6配列のプライマーを用いてPCRを行うことにより、確実に性判別を行うことができ、繁殖計画に役立てることができた[Y.Itoh et al. Genes Genet. Syst. 72 : 51-56(1997), K.Murata et al. Jpn. J. Ornithol46 : 157-162(1998)]。
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