研究概要 |
様々な循環器疾患の発症にかかわる内因性因子として注目され,ごく最近心不全誘発因子であることも明らかにされたエンドセリン(ET)の受容体が,老化心筋で著明に増加していることを申請者らは発見した. 本研究の目的は,ET等の生活習慣病関連ペプチドの病態生理学的意義解明に加えて,Differential display法の改良法によって,ETの加齢による心機能低下に関与する遺伝子を発見し,それに基づいて新しい治療法や検査法を開発をめざすことにある.本年度は,老化心筋でみられたET受容体のアップレギュレーションとその病態生理学的意義を明らかにすること目的に,ET受容体のサブタイプ(ET_A,ET_B)遺伝子発現の加齢変化および心筋収縮力に対するET-1反応性の加齢変化とその機序について検討した.方法:全RNAをAGPC法で抽出し,ET受容体サブタイプ特異的オリゴヌクレチオドプライマーを用いてRT-PCRを行った.さらにRNAを変性ゲル中で泳動後ナイロン膜いブロットし,[^<32>P]dCTPラベルしたET_A,ET_B特異的プローブを用いてそれらの遺伝子発現を定量した.結果:1)ET-1は,ラト心筋に対し陽性変力作用を惹起すること,この陽性変力作用は老化により著明に低下すること,2)ET-1によって惹起される陽性変力作用はET_A,ET_Bそれぞれの受容体の選択的拮抗薬を用いた実験から,ET-1による陽性変力作用は主としてET_Aを介すること,3)ET-1によって惹起される陽性変力作用は,筋小胞体へのCa^<2+>取り込み阻害薬によって著明に抑制されること,4)RTーPCRおよびノーザンブロッティングによって測定したET_A,ET_B受容体遺伝子発現には加齢差は認められないこと,以上が平成9年度の研究により明らかになった.したがって,老齢ラットにおいてみられたET受容体B_<max>の増加は転写レベルの亢進によるものではないことが示唆された.ET受容体の増加にもかかわらず老齢ラット心筋においてET-1反応性が低下する原因としては,心筋収縮に関与しないET_B受容体サブタイプだけが増加している可能性は低いと考えられる.老齢ラット心筋においてはET-1によるSRのCa^<++>取り込み・放出が若齢ラットに比較して低下しているために陽性変力作用が減弱し,その結果として,ET受容体の適応性増加が起こっている可能性が示唆された.
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