研究概要 |
昨年度までに,造血前駆細胞のT,Bおよびミエロイド系列への分化能を解析できるmultilinage progenitorassay system(MLPアッセイ法)を開発し,マウス胎仔肝臓(FL)中で,T,B,ミエロイド系列へのコミットメントが進行していることを明らかにした.本年度は,FLよりも早期に造血が起こるとされているAorta-Gonard-Mesonephros(AGM)領域における造血前駆細胞の系列コミットメントの状態を解析した.この研究によって以下のことが明らかとなった. 1) AGM細胞がT,Bおよびミエロイド系列への分化能を獲得するのは胎齢9.5〜10.0日である. 2) 10.0日AGMの前駆細胞は,FLの前駆細胞と異なりSca-1を発現しておらず,しかもIL-3に対しては反応しない.MLPアッセイ法においてはIL-3のかわりにGM-CSFを用いた. 3) 10.0日目AGM中にはT,B,ミエロイド系列へ分化できる前駆細胞(p-Multi),T,Bあるいはミエロイド系のみに限定された前駆細胞(p-T,p-B,p-M),さらにミエロイドとT(p-MT)またはミエロイドとB(p-MB)系列へ分化しうるbipotent前駆細胞が観察された.このことはFL中の前駆細胞と同じであるが,前駆細胞の数はFL中の1/200〜1/1000であった. 4) AGM前駆細胞とFL前駆細胞では,分化能に明らかなちがいがみられるものがあった.p-Tは明らかに2種類に分けられ,大多数のp-Tは少数のThy-1^+細胞をつくるだけであった.p-Multiにも2種類あることが明らかとなった(p-Multi1,p-Multi2).p-Multi1はFL中のp-Multiの未成熟型と考えられたが、p-Multi2は明らかにT細胞への分化能を特に強く示すものであった. 以上のように,個々のAGM前駆細胞の分化能を解析することによって,胎仔肝臓が形成される前の造血前駆細胞で系列決定が始まっていること、さらにその分化能が多様であることが明らかとなってきた.
|