焼死体が死亡直前に吸入したガス成分を識別することにより、事故、事件等の状況を明確にできると期待される。そこで、本研究では、より鮮明にガス成分の識別を行うために、キャピラリーカラム/ガスクロマトグラフィー/質量分析法による微量証明法を検討してきた。本年度も昨年度に引き続き試料導入法および分析条件等の検討を行った。本年度は、以下の2手段を検討した。1.従来の気化平衡法を基番こ、試料付加容量が大であるミドルボアキャピラリーカラムを使った分析条件を検討した。ヘッドスペース前処理装置を使用した場合、ペンタンからトリデカンまでの炭化水素の定量が可能な条件を得たが、クロマトグラムの分離の面ではやや検討する課題を残した。また、この測定のために分析装置の条件を特別にセットする必要があり、この方法は薬物分析などの緊急分析を行う機関での実用性にやや乏しいのではないかという問題が生じた。2.新しくヘッドスペース/固相ミクロ抽出法(SPME)の導入を検討した。この方法は、有機溶媒を必要とせず、高感度分析に適しているということで、最近、揮発性物質の抽出法に使用されている。ところが、ベンゼンなどの低沸点化合物ではかなり抽出効率が悪いことが指摘され、その改良は難題とされている。まず、本研究では、この導入法の採用により、他の薬物分析と同じカラムを使える条件を検討した。カラム初期温度を-40℃にすることでヘキサンから検出でき、しかも、ピークの分離度も高く、複雑な混合炭化水素を個々に定性することも可能になった。これまで、高沸点側化合物の検出感度が低かったが、このSPMEにより極めて高くなった。これにより、これまで困難であった灯油等成分の高沸点化合物が容易に検出でき、より実用的な方法の確立が期待される。しかし、SPMEは従来のヘッドスペースの常識では説明をつけることができない現象もあり、今後の検討課題となった。
|