本研究は、腫瘍細胞への集積性と高い代謝安定性・尿排泄性を示す放射性ヨウ素標識化合物を酸で開裂する蛋白質標識試薬の開発を目的とする。本研究成果は、以下のように要約される。 1.腫瘍集積性ヨウ素標識化合物の探索…高い代謝安定性と尿排泄性を有する種々のヨウ素標識アミノ酸を合成した。マウスエールリッヒ腹水癌細胞では、ヨウ素標識チロシン誘導体がアミノ酸能動輸送機構への高い親和性を示し、腫瘍細胞へ投与後速やかに高く集積することが判明した。 2.モデル結合体の作成と酸解離性の評価…高い腫瘍集積性を示したヨウ素標識アミノ酸と、結合部位として数種の無水酸とを組み合わせたモデル結合体を合成した。得られた結合体の標識は、簡便な操作で短時間に高い標識率と放射化学的純度を示し、本標識試薬の標識条件を確立した。これらのヨウ素標識モデル結合体を用い、種々のpHにおける解離性を評価した結果、すべての結合体が生理的pHでは安定であった。更に、低pH環境において結合体の解離が進行した。特にアルキル側鎖を有する結合体ではpH感受性が高く、本標識試薬のデザインに有望な結果が得られた。 3.高い代謝安定性と尿排泄性を具備する新規化合物の設計…上記の検討から、ヨウ素標識アミノ酸のα-炭素上の置換基の有無が結合体の生成に影響すると考え、腫瘍への高い集積に必要なアミノ酸膜能動輸送機構への親和性を有するとともに高い代謝安定性と尿排泄性を併せもつ新規ヨウ素標識アミノ酸を設計し、その生体内挙動を詳しく検討した。 4.腫瘍特異的代謝に基づく滞留性を示す新規化合物の合成・評価…更に、これらの知見から特定の腫瘍で特異的亢進を示す代謝系への親和性に基づく滞留性の向上を目的とした新規アミノ酸開発の一端として、黒色腫細胞で異常に亢進しているメラニン形成に着目し、チロシナーゼ基質類似体を用いて腫瘍集積性ヨウ素標識化合物としての有用性を評価した。 5.標識試薬の合成…腫瘍細胞に高く集積したヨウ素標識アミノ酸の尿排泄機序を詳しく検討した。これらの腎における通過機構は同一ではないものの、尿排泄性は既存の腎機能診断薬に匹敵するものであった。
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