本研究は、サイトカインあるいはその受容体を細胞内に遺伝子導入することにより、動脈硬化巣の修飾の可能性とその機序を明らかにすることを目的としており、すでにアデノウィルスベクターを用いてin vivoでのCNP遺伝子およびTGF-β変異受容体遺伝子の発現を行ない、バルーンカテーテル傷害後の内膜肥厚を著明に抑制することを明らかにした。 本年度は、バルーンカテーテル傷害後の内膜肥厚の促進機構として、血管平滑筋細胞の形質変換と細胞外マトリックスの変化について検討し、さらに、この分子メカニズムに対して、内膜肥厚を制御する可能性について以下の検討を行なった。 1.動脈硬化モデルとしてラット総頚動脈への二重バルーンカテーテル傷害法を確立した。 2.二重バルーンカテーテル傷害法により、内膜肥厚は約2倍に増加していたが、細胞成分の増生は少なく、fibronectinやlamininなどの細胞外マトリックスの増加が顕著であった。 3.この肥厚内膜部の平滑筋細胞のサイトカイン受容体の発現は低下していた。 以上の結果から、細胞外マトリックスにより血管平滑筋細胞は、動脈硬化巣に存在する合成型から正常動脈壁中膜での収縮型に形質変換していることが推測され、in vitroでの誘導を試みた。 4.コラーゲンで形成した高次構造を有する培養系において、血管平滑筋細胞の合成型から収縮型への形質変換の誘導が認められ、細胞外マトリックスによる血管平滑筋細胞の機能修飾が明らかになった。これらの機構を明らかにするためにTNF-αの受容体および増殖依存性発現受容体であるLR11の細胞への遺伝子導入を行い、変換機構への関与を明らかにした。 以上の今年度の成果は、プラークの安定化への誘導機序解明を示唆し、動脈硬化巣に対する新たな治療法への新たな考え方を示すものであった。
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