研究概要 |
平成9年度から平成12年度において行われた本研究では、腎病変において、最も頻度が高い糸球体病変の病態を解明するため、メサンギウム細胞の増殖の機序を細胞内情報伝達系及び、細胞周期調整遺伝子の発現の点から検討した。我々は、まずメサンギウム細胞の増殖に関与する因子の一つがPDGF-B鎖とb受容体の発現亢進であることをつきとめた。次にPDGF、TGF-bなどを含めた増殖因子によりどのようにメサンギウム細胞の増殖の調節がなされているかを、細胞膜から核内に至るまでの細胞内情報伝達系の生理的および、病的意義につき検討を加えた。特にMAP kinase(K),p38K cascadeは各種受容体の刺激を細胞増殖、蛋白合成など種々の細胞機能に伝達、変換していると考えられるが、その生理的役割を検討した。我々は、尿細管細胞およびメサンギウム細胞において、活性型MAPKKを強制発現させるとcyclin D1 promoter活性が亢進し細胞周期はG1-Sへ移行すること、一方TGF-bがTGF-b-activating kinase(TAK)1-MKK6-p38Kの活性化によりcyclin D1 promoter活性を抑制し細胞増殖を抑制することを示した。またPDGFなどによるメサンギウム細胞の増殖にはcyclin D1の遺伝子発現とRb蛋白のリン酸化が必須であり、アデノウイルスを用いた細胞周期抑制遺伝子(p16,p21)の強制発現により、細胞周期は抑制されることを報告した。HMG-CoA還元酵素阻害薬が、細胞周期抑制遺伝子(p27)の転写亢進を介して、メサンギウム細胞の増殖抑制をきたすことをin vitro及びin vivoの系で示した。またANP,CNP及びそのsecond messengerであるcGMPが、cyclin Eの転写活性を低下させることにより、腎細胞での細胞周期抑制を引き起こすことを報告した。またグルココルチコイドがメサンギウム細胞の細胞周期抑制をp21を介して起こすことをin vivo及びin vitroで示した。 特定の遺伝子のアデノウイルス等を用いての導入については、基礎的検討で、尿管からアデノウイルスを導入する方法を開発し発表した.
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