研究概要 |
遺伝子治療で癌細胞を殺すcytotoxityを担う分子としてthymisine kinaseなどが用いられているが、そのcytotoxityは充分でないことが多い。そこで、我々はジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)の外毒素遺伝子のフラグメントAをレトロウイルスベクターに組み込んだ。この毒素は易熱性の分子量約58,000の1本鎖のポリペプチドで、毒素はフラグメントA(分子量約21,000)とフラグメントB(分子量約37,000)からなる。フラグメントB部分は感受性細胞表面のレセプターと結合し細胞内とり込みに必須で、フラグメントAはペプチド伸長因子EF2をADPリポシル化することによって蛋白合成を阻害し細胞を死に至らしめる。このベクターウイルスが感染して壊死した癌細胞から外液に出たジフテリアトキシンは、フラグメントBを欠損しているため他の細胞内には入れないので、周囲の正常組織を壊死させることはないように設計した。 ジフテリアトキシンという強力なcytotoxic分子をベクターに組み込むため、この分子が正常組織で発現して副作用をもたらさないように、薬物存在下でのみ働く転写制御装置を組み込むことにした。こうした人工的転写制御分子として、パスツール研究所で開発されたrtTR(reverse tetracycline controlled trans activator)を用いることにした。このrtTRは大腸菌のドキシサイクリン依存性プレッサー(rTR)をもとに構築された分子で、ドキシサイクリン存在下でのみ転写を活性化する働きがある。即ち、ジフテリアトキシンをこの転写装置の制御下におき、ドキシサイクリンを腹膜腔内に投与すれば、万一、他臓器(たとえば骨髄など)にレトロウイルスベクターが感染しても、腹膜腔内でしかジフテリアトキシンが発現せず、極めて安全性が高い。ところが実際に、rtTR-ジフテリアトキシン発現ベクターを構築し、細胞に発現させてみると、それらの細胞はドキシサイクリン非存在下でも死滅した。これはドキシサイクリン非存在下でジフテリアトキシンのフラグメントAがleakyに発現したことによる。そこで更に我々はドイツのDr.Marius Ueffingらからで新しいrtTR発現システムを導入し、現在ジフテリアトキシンのフラグメントAを組み込んでいる所であるが、この発現誘導システムはleakが極めて少ないので、新しい遺伝子治療法として期待できる。
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