胸部大動脈瘤の血管内治療に際し、大動脈より分技する肋間動脈の血流遮断に伴う脊髄虚血障害の発生が重大な合併症である。平成10年度は、脊髄虚血の予知を目的として昨年度補助金によって開発した回収式血管内挿型人工血管について、その有効性と安全性を臨床的に検討した。教室で開発した血管内で任意に開閉できる回収可能な血管内挿型人工血管について、臨床的に動脈内での放出固定および回収の機能を検討した。胸部大動脈瘤10症例について、当大学倫理委員会の承認に基きステントグラフト留置に関するインフォームドコンセントを得た後、当該内挿型人工血管を臨床使用した。人工血管の拡張性柔軟性、壁密着性、また回収時の摩擦抵抗および耐久性を解析し、設計時の予測とほぼ同程度の機能があることを確認した。 回収式内挿型人工血管を目的とする動脈内に留置し、21分間にわたり脊髄誘発電位を測定した。全症例において脊髄誘発電位の変化を認めず、いずれも脊髄虚血がないものと判定した。 誘発電位測定の後、内挿型人工血管をカテーテル内へ収納して体外に回収し、これに続いて永久留置を目的とした内挿型人工血管(ステントグラフト)を動脈内の同一部位に挿入固定した。ステントグラフト留置後も脊髄誘発電位を測定し、さらに全身麻酔覚醒後に下肢の運動および知覚障害の有無を検討した。 全症例において動脈瘤を曠置閉塞することができ、術後も脊髄誘発電位に変化を認めず、麻酔覚醒後は下肢の運動および知覚麻痺を認めなかった。 以上の結果より、回収式内挿型人工血管の有用性および挿入回収に関わる安全性を確認するとともに、永久留置ステントグラフトの有用性を証明することができた。
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