胸部大動脈瘤の血管内治療に際しては脊髄虚血障害が重大な合併症となる。そこで、脊髄虚血を予知する方法として、回収式血管内挿型人工血管を動脈内に一時的に留置して脊髄誘発電位を測定する新しい手法を考案した。 血管内で任意に開閉できる回収可能な血管内挿型人工血管を試作し、流体実験回路を用いて安全性と有効性を確認した。その結果、自己拡張型Z-ステントを9本の0.4mm細径ステンレス針からなるストラットに連結することで、回収可能な内挿型人工血管の骨格を作成することができた。また、人工血管材料をPTFEとし、これをステント骨格の内側に縫着することにより、カテーテル内への回収を安全確実に行うことが可能となった。 臨床的に内挿型人工血管の動脈内での放出固定および回収の機能を検討した。胸部大動脈瘤合計15症例について、当大学倫理委員会の承認に基き、当該内挿型人工血管を臨床使用した。人工血管の拡張性、柔軟性、壁密着性、また回収時の摩擦抵抗および耐久性を解析し、設計時の予測とほぼ同程度の機能があることを確認した。 回収式内挿型人工血管を動脈内に留置し、21分間にわたり脊髄誘発電位を測定した。全症例において脊髄誘発電位の変化を認めず、いずれも脊髄虚血がないものと判定した。 誘発電位測定の後、内挿型人工血管を経カテーテル的に体外に回収し、続いて永久留置を目的とした内挿型人工血管(ステントグラフト)を動脈内に挿入固定した。 全例で動脈瘤を曠置閉塞することができ、術後も脊髄誘発電位に変化を認めず、麻酔覚醒後は下肢の運動および知覚麻痺を認めなかった。 以上より、回収式内挿型人工血管を新たに開発し、その使用上の安全性を確認するとともに、ステントグラフトの永久留置に伴う脊髄虚血発生の予知方法を確立することができた。
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