研究概要 |
結合組織は可変性に富んだ組織であり、状況に応じて既成組織を更新、修復、代償する能力を持っている。この性質を利用すると、「任意の部位に」「任意の分量の」脂肪組織を誘導できることを我々は本研究ではじめて明らかにした。本研究で挙げた主要な研究成果を概説すると次のようである。Kawaguchi et al.がcytotechnologyに発表した論文では、培養下で脂肪に分化する3T3-F442A株の前駆細胞を大量培養してヌードマウスの胸部皮下に注入移植すると、4週間後には脂肪細胞が整然と配列した脂肪組織が形成されることを報告した。鳥山和宏ら(1998),組織培養工学,24,143-146に発表した論文では、培養用のマイクロキャリアービーズ表面に前駆細胞を着生させて皮下注入すると、間葉系幹細胞が周辺に遊走してビーズを包み込む結節を形成するが、ビーズがbFGFを含まないと脂肪分化は見られないが、含むと間隙に脂肪が分化することを報告した。Kawaguchi et al.(1998)De novo adipogenesis in mice at the site of injection of basement membrane and basic fibroblast growth factor.Proc Natl Acad Sci USA.95,1062-1066として発表した論文では、マトリゲル(可溶化基底膜)とbFGFを混合注入するだけで、内在性脂肪前駆細胞がマトリゲルに侵入して健全な脂肪細胞に分化することを報告した。本研究で明らかにしたマトリゲルによる軟部結合織の誘導形成は、外傷によって皮下軟部組織を失った患者や、顔面の半側の皮下結合織だけが特異的に萎縮する顔面半側萎縮症の患者などの治療に大いに役立つものと期待される。
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