MMP及びTIMPの遺伝子発現制御による悪性腫瘍の基底膜浸潤・転移の抑制法の開発

1997 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 09557124
• 研究機関: 九州大学
• 研究代表者: 岩本 幸英 九州大学, 医学部, 教授 (00213322)
• 研究分担者: 小田 義直 九州大学, 医学部, 助手 (70291515)
• キーワード: matrix metalloproteinase(MMP) / tissue inhibitor of metalloproteinase(TIMP) / 悪性腫瘍 / 浸潤 / 転移

研究概要

ヒト骨肉腫細胞株7種を用いてinvasion assayを行なったところ、いずれの細胞も基底膜浸潤能を示した。さらに、zymography、Westem blottingを行なったところ、基底膜の酵素的破壊に関与するmatrix metalloproteinase(MMP)、およびそのインヒビターであるtissueinhibitor of metalloproteinase(TIMP)の発現が確認された。そこで、基底膜中のIV型コラーゲンを分解するMMP-9の発現を誘導するとされているTNF-α、IL-1βにより、基底膜浸潤能がどのように変化するか検討したところ、7種のうち3種で基底膜浸潤能およびケモタキシス(運動能)の亢進を認めた、この3種のうち2種において、MMP-9の発現とIV型コラーゲンの分解能が亢進していた、近年、サイトカインにより活性酸素が発生し、種々の細胞内シグナルとして利用されている可能性が指摘されており、基底膜浸潤においてもその関与が考えられる。そこで、TNF-αにより基底膜浸潤能が亢進した細胞3種をH_2O_2で刺激したところ、いずれも基底膜浸潤能および運動能の亢進が確認されたが、MMPは変化しなかった。さらに、サイトカインの作用に対するアンチオキシダント[NAC(N-acetyl cysteine)やPDTC(pyrrolidine dithiocarbamate)]の影響を検討した。TNF-αによるMMP-9発現誘導を認めた2種において、アンチオキシダントを添加すると、TNF-αによる基底膜浸潤能は抑制されたが、MMP-9の発現は変化しなかった。以上の結果より、サイトカインによる骨肉腫細胞の基底膜浸潤能を規定する要素として、基底膜の酵素的破壊に関与するMMPの発現と、活性酸素の関与が示唆された。
また、以前我々は、8Br-cAMPでTIMPの発現誘導により、基底膜浸潤、転移能が抑制されることを明らかにしたが、8Cl-cAMPは浸潤能をより効果的に抑制することを見いだした。さらに、我々の開発した、Matrigelを用いた腫瘍血管新生定量モデルにおいて、8Cl-cAMPは血管新生及び腫瘍増殖を抑制することを見いだした。

研究成果

• [文献書誌] Naka T: "Expression of c-met proto-oncogene product(c-MET)in benign and malignant bone tumors." Modern Pathology. 10(8). 832-838 (1997)
• [文献書誌] Tanaka K: "EWS-Fli1 antisense oligodeoxynucleotide inhibits proliferation of human Ewing′s sarcoma and primitive neuroectodermal tumor cells." J.Clin Invest.99(2). 239-247 (1997)
• [文献書誌] Naka T.: "p53 accumulation in malignant bone tumors:An immunohistochemical analysis of 217 cases." International Journal of Surgical Pathology. 5(1&2). 1-10 (1997)
• [文献書誌] Naka T: "Cytokeratin subtyping in chordomas and the fetal notochord:An immunohistochemical analysis of aberrant expression." Modern Pathology. 10(6). 545-551 (1997)
• [文献書誌] Jingushi S: "Serum 1α ,25 dihydroxyvitamin D3 accumulates into the fracture callus during rat femoral fracture healing." Endocrinology. (in press). (1998)
• [文献書誌] Oda Y: "Giant cell tumor of bone:oncologic and functional results of lomg-term follow-up." Japanese Journal of Clinical Oncology. (in press). (1998)
• [文献書誌] 岩本幸英: "悪性骨軟部腫瘍の基底膜浸潤の機構" 骨・関節・靭帯. 10巻6号. 687-696 (1997)
• [文献書誌] 岩本幸英: "悪性骨軟部腫瘍の転移・基底膜浸潤の分子機構とその制御" 整形外科. 48巻5号. 625-630 (1997)
• [文献書誌] 岩本幸英: "骨軟部肉腫の転移機序について" マルホ整形外科セミナー・放送内容集. 第124集. 27-30 (1997)
• [文献書誌] 岩本幸英: "骨軟部腫瘍の診断と治療" 福岡県保険医ニュース. 第566号. (1997)
• [文献書誌] 岩本幸英: "骨肉腫" 臨床と研究. 74(12). 133-139 (1997)
• [文献書誌] 岩本幸英: "骨転移とサイトカイン" 整形・災害外科. 41(1). 55-60 (1998)
• [文献書誌] 岩本幸英: "癌の長管骨への転移とその治療" 骨・関節・靭帯. 11(2)(印刷中). (1998)
• [文献書誌] 岩本幸英: "腫瘍診療雑感" 整形・災害外科. 40(10). 1091-1092 (1997)
• [文献書誌] 岩本幸英: "整形外科における分子生物学<1>骨・軟部腫瘍" 日整会広報室ニュース. 第31号. 6 (1997)
• [文献書誌] 岩本幸英: "整形外科治療のコツと落とし穴" 中山書店, 3 (1997)