悪性骨軟部腫瘍患者の死因のほとんどを占める遠隔転移の分子機構の解明と、その抑制法の開発は、社会的急務である。転移に際し、悪性腫瘍細胞は原発巣から血管内への播種、転移巣での新生血管から転移標的臓器内への迷入の2度にわたり血管内皮細胞下の基底膜を浸潤、破壊する。この基底膜浸潤は、転移成立までの多段階のプロセスのなかで最も重要なステップであると考えられている。基底膜浸潤には、基底膜の酵素的破壊が必須であるが、それに関わる因子として、MT1・MMP(membranes-type 1 matrix metalloproteanase)、MMP・2およびTIMP・2が重要である。前年度までの研究で、我々は、骨肉種の浸潤、転移のメカニズムとして、autocrineあるいはparacrineで作用する、TNF・aをはじめとする腫瘍産生サイトカインが促進的に働き、その際、転写因子NF-kBのシグナル伝達経路は、基底膜浸潤における基底膜への接着、酵素的破壊以外のプロセス、すなわち、基底膜内の運動を制御していること、経口投与可能な新しいMMP阻害剤であるOPB・3206を用い、in vivoで腫瘍増殖と肺転移を抑制する効果があること、を明らかにした。平成11年度においては、低分子量GTP結合蛋白質Rhoの活性化によるストレスファイバーの構築が、骨肉腫細胞における細胞形態の変化を制御し、Rhoを介するシグナルによって、MT1・MMP、TIMP・2および活性型MMP・2の発現が制御されていること、軟骨肉腫において、MT1・MMP、TIMP・2およびMMP・2の発現が、組織学的悪性度と密接な関連があること、を明らかにした。さらに、組織学的な軟骨基質の破壊と、MT1・MMP、TIMP・2およびMMP・2の発現にも相関がみられ、これらの因子が軟骨肉腫細胞の浸潤能に重要な働きをしていることが示唆された。
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