研究課題
固形癌の増殖には血管新生が必要不可欠である。これまで血管新生因子あるいは微小血管密度が腫瘍の組織学的悪性度や患者予後と相関することが示されつつある。現在、腫瘍の進展度、転移あるいは再発を知る手段は画像診断に限定されているが、これらをより簡便に診断する生物学的指標があれば臨床上きわめて有用である。なかでも、血管内皮成長因子(VEGF)は血管新生を惹起する代表的な生理活性物質として知られ、腫瘍により産生されたこれら物質の一部は血中にも遊離する。本研究では腎癌患者における血中VEGFの血中濃度を測定し、その臨床的意義を検討した。65例の腎癌患者(男性47例、女性19例。平均年齢60.5歳(37-83歳))と66例の非癌患者を対象とし、血中VEGFはELISA法を用いて測定した。非癌患者の血中VEGFは52.0±6.5pg/ml(平均±標準誤差)、腎癌患者は161.2±22.8pg/mlであり、後者が有意に高値を示した(p<0.0001)。また、遠隔転移を有しない患者の血中VEGFは112.0±14.5pg/mlであったのに対して、転移を有する患者は314.8±71.6pg/mlと有意に上昇していた(p<0.0001)。さらに、血中VEGFは画像診断により測定した主要容積と有意な相関を認めた(r=0.731、p<0.0001)。カットオフ値である100pg/ml以上をVEGF高値群、100pg/ml未満を低値群として癌特異的生存率を求めると、低値群の3年生存率92.6%に対して高値群63.8%と有意な生存率の低下を認めた(p<0.05)。以上の結果から血中VEGF濃度は腎癌患者の臨床像を反映し、再発・転移を予測する生化学的指標になる可能性が示された。
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